大阪地方裁判所 平成3年(ワ)3270号 判決 1992年8月31日
原告
永和信用金庫
右代表者代表理事
高橋伸治
右訴訟代理人弁護士
中村泰雄
被告
池吉雄
右訴訟代理人弁護士
深草徹
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実および理由
第一請求
1 被告は原告に対し、金五二二万七九一二円及び内金一三七万六二六〇円に対する平成三年一月九日から支払ずみまで年18.25パーセントの割合、内金三八一万八〇〇〇円に対する平成二年一二月六日から支払ずみまで年14.5パーセントの割合による各金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第二事案の概要
一本件は、原告と被告の兄池一雄(一雄)との間の信用金庫取引によって一雄が現在及び将来負担する一切の債務につき被告が連帯保証したとして、原告が被告に対し連帯保証債務の履行を求めた事案である。
二争いのない事実及び基本的事実
1 原告は一雄との間で、昭和五九年三月二六日信用金庫取引約定を締結し、被告は同日、一雄が原告に対し右取引によって現在及び将来負担する一切の債務について連帯保証した。原告は、一雄所有の不動産にそのころ設定した根抵当権設定契約を昭和六一年九月一日解除した。(当事者間に争いがない)
2 原告は一雄に対し、昭和六二年五月二六日六〇〇万円を元利均等分割弁済、損害金年18.25パーセントの割合の約定で貸付けたが、一雄は平成二年一二月二六日期限の利益を喪失した。その当時の残元本は一九七万九五四五円であるが、原告は平成三年一月九日一雄の六〇万三二八五円の預金と相殺したので、残元本は一三七万六二六〇円である。なお、相殺前の残元本に対する平成二年一二月六日から相殺の前日である平成三年一月八日まで(三四日)の年18.25パーセントの割合による遅延損害金は三万三六五二円である。(<書証番号略>、弁論の全趣旨)
また国民金融公庫は一雄に対し、平成元年九月二六日一〇〇〇万円を元利均等分割弁済、損害金年14.5パーセント(一日0.04パーセント)の割合の約定で貸付けたが、一雄は平成二年一二月六日期限の利益を喪失した。右残元本は七六三万六〇〇〇円である。原告は、右貸付未収元利金の半額について保証していたところ、一雄は同月一四日破産宣告を受けたので、原告は右半額の三八一万八〇〇〇円につき事前求償権の行使が可能となった。(<書証番号略>、道吉証言)
三本件の争点
本件のような継続的な連帯保証による被告の責任の範囲は合理的に限定すべきであり、昭和六一年九月一日原告が一雄所有不動産の根抵当権設定契約を解除した時点で終了したといえるか。また原告の被告に対する本件連帯保証債務履行請求は信義則に反するか。
第三争点に対する判断
一本件のように、保証人が主債務者の現在及び将来負担する一切の債務について、保証期間及び保証限度額の定めなく連帯保証するという継続的保証においては、連帯保証契約締結の経緯、債権者と主債務者との取引の態様・経過、債権者が取引にあたって債権確保のために用いた注意の程度・手段その他一切の事情を斟酌し、信義則に照らして保証人の責任を合理的範囲に制限すべきものであると解する。
二そこで、本件について検討するに、証拠(<書証番号略>、道吉証言、被告)によれば次の事実が認められる。
1 昭和五九年三月二六日、原告と一雄が信用金庫取引約定を締結した際、被告のほか一雄の妻池厚子(厚子)が連帯保証人となった。一雄は自宅に被告を呼んで、不動産購入資金借入れのためと説明して右約定書の連帯保証人欄に署名押印させた。当時原告の関係者は被告と会ったことはなく、保証の内容について何ら説明しなかった。また原告は被告の資産調査を全くしなかった。
そのころ一雄は寿司屋を経営していたが、その店舗に接する不動産を購入するために一雄所有不動産について同月一七日極度額四六〇〇万円の根抵当権を設定し、同月二六日右信用金庫取引約定に基づき原告から三七五〇万円を借り受けた。さらに昭和六〇年八月原告は一雄に対し店舗改築資金として二〇〇〇万円を追加貸付しその際右根抵当権の極度額を六五〇〇万円に変更した。一雄は、他の金融機関からの借入れによって、原告に対し昭和六一年九月一日までに右借入金をすべて返済したので、原告は同日右根抵当権を解除し同設定登記を抹消した。そのころ一雄は被告に対し、原告からの右借入金の返済が終了したと告げた。またそのころ原告は被告に対し、本件信用取引と連帯保証が続くことを確認しなかった。原告は、一雄に対するその後の営業資金の貸付については、一雄の返済実績、営業状態等からみて不動産担保は不要と考えていた。
2 昭和六二年五月二六日、原告が一雄に対し店舗営業資金として六〇〇万円を貸付けた際厚子を個別に連帯保証人としたが、被告を連帯保証人とはしなかった。また平成元年九月二六日、原告が代理人となって国民金融公庫が一雄に対し一〇〇〇万円貸付けたが、その際も厚子を個別に連帯保証人としたが、被告を連帯保証人とはしなかった。昭和六〇年九月以降の一雄に対する貸付はこの二回のみであった。
三右の事実、特に、被告が連帯保証した事情(被告は一雄から不動産購入資金の借入につき保証人になるよう頼まれたにすぎないこと)、原告と一雄の取引の態様・経過(昭和五九年、六〇年の貸付については昭和六一年九月の全額返済により原告は一雄に対する根抵当権を解除したこと、原告はその後の一雄の営業資金の貸付については一雄の営業状態等からみて返済可能と考えていたこと、本件請求の貸付は継続的保証のなされた昭和五九年から三年後と五年後の二回にすぎないこと)、原告は本件請求の貸付につき厚子の連帯保証はとったが、被告の保証をとらなかったこと、被告としても昭和六一年九月ころに自己の連帯保証責任は終了したと考えていたことなどに照らすと、原告は被告に対し本件請求の貸付につき個別保証をとるか、又は継続的保証が続くことを確認すべきであったと解する。
したがって、本件では、信義則上昭和六一年九月の時点で被告の連帯保証責任は終了したと解するのが相当であり、本件請求は許されないというべきである。
なお信用金庫取引約定書(甲一)によれば、金庫がその都合によって担保を解除しても保証人は免責を主張しないとの約定があるが、前記の諸事情に照らすと右約定は右認定の妨げにはならないと考える。
四よって、原告の請求は理由がない。
(裁判官新堀亮一)